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飛騨高山よしま農園は、無添加赤かぶ漬けと無農薬自然栽培野菜農家です

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漬物の健康機能性company

宮尾茂雄著 農畜産業振興機構「野菜情報」2020年6月号 より引用

はじめに

塩分が高いと消費者から敬遠されがちな漬物。しかし、奈良時代以前より現代まで和食に欠かすことのできないパートナーとして食されてきたのが漬物である。和食の基本は一汁三菜である。三菜は主食であるご飯をおいしくいただくための「おかず」で、主食のご飯と汁の間に「香の物」と呼ばれる漬物が置かれるのが、1000年以上続く日本の食事の基本形である。

ご飯と漬物は、和食の前提であることから、一汁三菜という言葉には表れないだけである。漬物は香りを楽しむといった意味で「香のもの」といわれたり、みずみずしさを楽しむところから「お新香」と呼ばれたりもする。

近年、食品に含まれる成分の中でも体の調子を整える生体調節機能を有する健康機能性成分が注目されているが、漬物には食物繊維を始め、ビタミン類、ミネラル、ポリフェノールなどの健康機能性成分を含んでおり、GABA、イヌリン、イソチオシアネートなどにも関心が高まっている。 また、すぐき漬やしば漬のように乳酸発酵を経て作られる発酵漬物には多量の植物由来の乳酸菌(いわゆる植物性乳酸菌)が含まれていることから、その健康維持機能に対する関心も高い。そこで、本稿では、漬物が有している健康機能性について紹介する。


1 食物繊維

 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2010年版)」によると食物繊維は1日20グラム摂取すると糞便重量が増加することや生活習慣病である心筋梗塞との関連が高いことが明らかになっており、食物繊維の摂取量が1日24グラム以上で心筋梗塞の発症は低下し、1日12グラム未満では死亡率が増加していることを食事摂取基準の中で示している(注1)。また、「日本人の食事摂取基準(2020年版)」では、成人の食物繊維の目標値として、成人男性1日21グラム以上、女性18グラム以上の摂取が望ましいことが述べられている(注2)。しかし、2016年の国民健康栄養調査によると若年層の食物繊維摂取量が低く、年齢層が高くなるにつれ摂取量が多くなる傾向が認められるものの(表1)、いずれの年代においても目標値に達していないことが明らかである。さらに、食物繊維を多く含む野菜類の摂取目標量は1日350グラムとされているが、現状では男性、女性とも目標量に達していない(図1)。したがって、より多くの食物繊維を野菜や漬物などの加工品から摂ることが求められる。特に、若い人達はもっと野菜類から食物繊維を摂取することが望まれる。







図2は、原料野菜と漬物に加工した場合の食物繊維の量を比較したものである。きゅうりは漬物にすると生食の場合より水分含量が減少するので食物繊維は相対的に増加する。したがって、同じ量を食べる場合、漬物で食べた方が食物繊維を多く摂ることができる。だいこんの場合も生食で食べるよりもたくあん漬として食べた方が倍以上の食物繊維を摂取できる。同様に高菜、はくさいにしても同量であれば漬物を食べた方が食物繊維を多く摂ることができる。このように漬物は生食よりも、より多くの食物繊維を摂ることができる。表2に主な漬物の食物繊維含有量を示した。








食物繊維には、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維がある。不溶性食物繊維は便量の増加や腸壁の刺激などによる生活習慣病の予防に効果があり、水溶性食物繊維は腸内細菌の栄養源となり、腸内フローラ(細菌叢)(注3)の改善に効果があるとされている。近年、水溶性食物繊維の中でも特にイヌリンが注目されている。イヌリンはビフィズス菌の増加作用や血中中性脂肪低減効果、食後血糖値上昇抑制効果があるといわれている。キクイモに多く含まれており、漬物も商品化されている。



注1:参考資料1 注2:参考資料2 注3:ヒトの腸内には数多くの細菌が棲みついており、これらの菌の集合体を腸内フローラ(細さい菌きん叢そう)と呼ぶ。消化管には胃、小腸、大腸などがあるが、通常、腸内フローラという場合は大腸や糞便のフローラを指す。(フローラとは花畑の意味)


2 カリウム

 野菜や漬物には、動物性食品には少ないカリウムが豊富に含まれている。カリウムは、ナトリウムの排出を促し血圧上昇を抑制する働きがあることから、栄養機能表示ができるミネラル6種類のうちの一つとなっている。

ヒトの体の細胞内にはカリウムが、細胞外にはナトリウムが多く存在し、常に一定のバランスを保っている。しかし、このカリウムとナトリウムのバランスが崩れると、細胞内から水分が血液中に移動する。その結果、血液などの細胞外液が増加、つまり、血液中の水分が増加し血圧が上昇し、これが高血圧の原因の一つとされている。

野菜を多く摂取し、カリウムを体内に取り込むことは、余分なナトリウムを尿中に排出することにつながり高血圧予防にもなる。漬物は食塩(塩化ナトリウム)を含んではいるが、同時にカリウムを多く含む野菜からできていることを消費者に伝えることも必要であろう。表3に漬物のカリウム含有量を示した。






3 機能性成分

 

(1)ポリフェノール

野菜や漬物に含まれる機能性成分としてよく知られているものにポリフェノールがある。ポリフェノールは野菜の色素や渋み成分に含まれているもので、なすや赤かぶなどのアントシアン色素などが代表的なものである。

厳しい環境のなかで外敵から身を守る生体防衛の目的から生成されたといわれていることから、抗菌作用、抗酸化作用、老化防止作用、発がん抑制作用、抗アレルギー作用などがあることが報告されている。



(2)GABA

GABA(γ―アミノ酪酸)は、1950年に哺乳類の脳から発見された物質で、タンパク質を構成しないアミノ酸の一種である。
高等動物では、抑制性の神経伝達物質として機能しており、ストレス低減作用、血圧降下作用や利尿作用があることが知られている。血圧は交感神経の活動が高まると上昇するが、GABAはこの交感神経の亢こう進しんを抑え、血管の収縮に働くノルアドレナリンの分泌を抑えることにより血圧を低下させているものと考えられている。

近年、GABAを生成する能力を持つ乳酸菌を利用した漬物の開発が行われ、商品化も進められている。図3は、GABA高生産乳酸菌である Lactobacillus sp.L13をスターターとして用いた千枚漬の試作の例で、3日目以降、急速にGABAが生成されていることがわかる。

また、だいこんを天日干しする過程においてもGABAが生成されるという興味深い事例も明らかになっている(図4)。 005b 006a (3)イソチオシアネート 国立がん研究センターの男女約9万人を対象にした多目的コホート研究で、アブラナ科野菜(だいこん、はくさい、カラシ菜、野沢菜、キャベツ、ブロッコリーなど)と死亡率の関連性について調べた結果、アブラナ科野菜の摂取量が最も少ないグループと比較して最も多いグループで男性の全死亡リスクは14%、女性では11%低いことが明らかとなっている(図5、6)。

アブラナ科野菜の摂取量が多いと死亡リスクが低下する理由として、アブラナ科野菜にはイソチオシアネートや抗酸化性ビタミンが多く含まれていることが挙げられており、それらの抗炎症作用や抗酸化作用が死亡リスクを低下させているものと考えられている。漬物の原料野菜の多くが、だいこん、はくさい、野沢菜、高菜、かぶなどのアブラナ科野菜であることから、漬物を摂取することで健康機能の維持につながることが期待できる。










(3)イソチオシアネート

国立がん研究センターの男女約9万人を対象にした多目的コホート研究で、アブラナ科野菜(だいこん、はくさい、カラシ菜、野沢菜、キャベツ、ブロッコリーなど)と死亡率の関連性について調べた結果、アブラナ科野菜の摂取量が最も少ないグループと比較して最も多いグループで男性の全死亡リスクは14%、女性では11%低いことが明らかとなっている(図5、6)。

アブラナ科野菜の摂取量が多いと死亡リスクが低下する理由として、アブラナ科野菜にはイソチオシアネートや抗酸化性ビタミンが多く含まれていることが挙げられており、それらの抗炎症作用や抗酸化作用が死亡リスクを低下させているものと考えられている。

漬物の原料野菜の多くが、だいこん、はくさい、野沢菜、高菜、かぶなどのアブラナ科野菜であることから、漬物を摂取することで健康機能の維持につながることが期待できる。










乳酸菌と漬物

 

プロバイオティクスは、腸内フローラのバランスを改善することによりヒトに有益な作用をもたらす微生物群のことで、乳酸菌やビフィズス菌などが良く知られている。

ぬかみそ漬、たかな漬、すぐき漬、しば漬、赤カブ漬、すんき、キムチなどの発酵漬物には胃酸耐性があるうえ、腸まで届くいわゆる植物性乳酸菌(注4)を豊富に含んでいることから発酵漬物はプロバイオティクス食品の一つといえる。

乳酸菌が有する作用としては、①便秘を抑え便通を良くする作用、②腸内の善玉菌を増やし悪玉菌を減少させ腸内環境を改善する整腸作用、③ウイルスなどに対する免疫を高める作用などを挙げることができる。

発酵漬物には植物性乳酸菌が1グラム当たり数千万から数億個ほど生息していることが知られている。植物由来乳酸菌と乳製品などに含まれる動物由来乳酸菌の特徴をまとめたものが表4である。


植物由来乳酸菌は、栄養成分が少ない環境や発酵漬物に豊富に存在することからも分かるように、高塩分、低pHなどの苛酷な環境下でも生育することが可能であることが分かる。言い換えると、胃酸に抵抗力があるということであり、動物由来の乳酸菌よりも胃での生存率が高く、腸管にまで到達する可能性が高いといえよう。





発酵漬物の製造過程において、一般的にみられる微生物叢の変化を模式図的に表したのが図7である。乳酸菌が増殖する結果、漬物の乳酸量は0.7~1.0%程度にまで達し、雑菌は死滅する。したがって、乳酸発酵漬物で食中毒が生じることはほとんどない。



発酵漬物には、健康維持機能を有する乳酸菌が生育していることが知られており、代表的な乳酸菌として Lactobacillus plantarum や Lactobacillus brevis が関与している。 注4:植物性乳酸菌は、植物由来乳酸菌のこと。


(1) すぐき漬(京都府)

すぐき菜は、京都市北区上賀茂に伝わる在来のかぶの一種である。京都で「すぐき」といえば、上賀茂神社の周辺で古くから作られている発酵漬物である「すぐき漬」を意味する。

京都にあるルイ・パストゥール医学研究センターによって、この「すぐき」から分離された L.brevisは腸内の免疫機構に作用し、インターフェロンの産生を促す作用のあることが明らかになっている(注5)。

インターフェロンは、抗ウィルス活性を持つ生体内で作られるたんぱく質で、感染症やがんから身体を防御する役割をはたしているナチュラルキラー細胞(以下「NK細胞」という)を活性化すると言われている。NK細胞とは、大型リンパ球の一種で、がん細胞やウィルスに感染した細胞を死滅させるなど、体内における免疫反応において活躍する細胞である。

さらに、整腸作用とともに免疫賦ふ活かつ作用(注6)を有しており、約3000人の小学生を対象に、本菌を含む飲料を用いた大規模な調査を行った結果、飲料を飲んでいた小学生は、飲料を飲んでいなかった小学生よりもインフルエンザにかかりにくかったことが明らかにされている。この結果、本菌が免疫機能を高めるだけでなく、インフルエンザに対しても効果のあることが確認されている(注7)。

注5:参考資料3 注6:免疫を活発にすること。 注7:参考資料4



(2)すんき(長野県)

「すんき」は木曾福島からさらに奥に入った木曾御岳山の麓にある開田高原の王滝村、開田村、三岳村などで古くから作られている発酵漬物で「すんき漬」とも呼ばれる。

この「すんき」からは植物性乳酸菌として Pediococcus pentosaceus やLactobacillus delbrueckii が分離され、それぞれ免疫調節機能や疾病予防機能を有していることが明らかにされている(注8)。

近年、アトピー性皮膚炎や食品アレルギー、花粉症などのアレルギー疾患が増加しているが、アレルギーを引き起こす原因となっているのがIgG抗体の発現、増加である。

これに対し、「すんき」から分離された P.pentosaceusをアレルギー性下痢症モデルマウスに経口摂取させたところ、マウス中の血中IgG抗体が減少しアレルギー性下痢症の軽減が認められたことから、アレルギー予防・軽減作用のあることが期待されている。

さらに、本菌が、NK細胞の活性を高める作用を有していることも明らかにされており(注8)、また、インフルエンザウイルスによるマウスの死亡を抑止することができたことから(注8)、インフルエンザの予防に対して効果のあることが期待される。


一方、L.delbrueckiiはピロリ菌の増殖や胃上皮細胞への付着を阻害する作用を有していることが明らかになった。ピロリ菌は日本人の多くが感染しているといわれており、胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍や胃がんの発症原因菌として知られていることから、本菌のピロリ菌感染予防も期待される。 注8:参考資料5




参考資料

1. 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2010年版)」 策定報告書
2. 厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」 策定報告書
3. 由松正ら:栄養学雑誌,60(3)、137ー143(2002)
4. カゴメニュースリリース,2014年10月16日,ラクトバチルス・ブレビス・KB290(通称:ラブレ菌)を含む飲料の継続摂取によるインフルエンザ罹患率の低減を確認〜インフルエンザ流行期に栃木県那須塩原市の小学校15校にて大規模調査を実施〜

5. 増田健幸ら:日本乳酸菌学会誌,21(1)、42ー49(2010)

宮尾 茂雄(みやお しげお)
宮尾
【略歴】
農学博士
2008年~20年 東京家政大学 食品加工学研究室 教授
2020年~現在 東京家政大学 大学院 客員教授
2002年~現在  中国・四川大学 食品科学系 客員教授
地理的表示保護(GI)学識経験者委員
日本伝統食品研究会 副会長
全日本漬物協同組合連合会 常任顧問 など


話題(野菜情報 2020年6月号) 漬物の健康機能性 農畜産業振興機構「野菜情報」2020年6月号 より許可を得て引用転載しています。