大波小波
儲ける農業から喜ばれる農業へ
農業共済新聞 2017.10.4 第3193号発行 掲載記事より 与嶋靖智
「農家は、嬉しい楽しい有難いの生き方をすることが大切です。
農家の心が野菜に反映され、食べる人に伝わります。食べ物は人の心と身体を創りますから、農家には責任があります」。
私が農業に挫折しそうになっていたときに、ある方から頂いた言葉です。そのとき、私にとって生涯目指すべき最も大切な答えを頂いたと感じました。
私は、肥料農薬堆肥を使わない自然栽培を実施する農家です。夢と理想はあっても、いざ実践となると多難なことに行き詰りました。病虫害に悩み、雑草に負けてゆく作物たちと一緒に、私の心も沈んでしまいました。元来、私は農業が好きで始めたのですが、いつの間にか辛く苦しくなっている自分自身に気づきました。
「そんな暗い顔していたら、良い野菜はできないよ」。妻のひとことが心に響いたとき、
「そうだ。私は農業をさせて頂いていることは本当に有難いこと。今の状況を心より感謝して楽しめば良いのだ」。そのように心かけ、私の気持ち変わり始めたころから、作物の成長する姿が、どことなくリラックスした感じになり、作物が気持ちよく成長するようになってきました。
また、収穫される野菜を食べたお客様より「優しい味に、心までホッとして暖かくなるようです」という嬉しいお声を頂くようになってきました。どんな困難があっても、農業を続けてきてよかったと、喜びに満たされるときです。
栽培が難しく、収穫が不安定な自然栽培では、利益追求に価値をおけばおくほど、その困難さに悩みます。そのとき先輩農家さんが「自然栽培は欲があったらできない。逆に欲がないほど良い物ができて、増収することがある」と、話されたことがありました。
農業は天候不順や予測不能なことが多いため、農家は非効率で非経済性なことにこそ、大切に向き合う場面が多くあります。そのなかで、常に愛と感謝をもち作物に接して、なおかつ食べて頂く消費者の皆様の心と身体の喜びになることを、我が喜びとするならば、それこそが農業の醍醐味だと。
「儲ける農業から、喜ばれる農業へ」です。農家にとって、心の満足とは何でしょうか。収穫量が多く収入が向上することは勿論嬉しいことですが、いかに儲けるかではなく、いかに喜んで頂けるかを大切にすることで、結果的に経営向上になるというのです。
心を語ることは、大波小波の大海にいるような気分です。自分自身の心の船を見つめながら、目的地を目指します。
自らの嬉しさと楽しさが少なくなっていると感じるとき、必ずと言ってよいほど周りへの感謝が乏しくなっていることに気づきます。辛い事でも意味があり大切な経験として感謝してゆくと、また喜びが増え、前進してゆくのです。私は農家として幸せを感じています。
そして野菜たちから教えられます。
「自然の世界では、損得や駆け引きはいらない」と。
参考 無肥料無農薬無堆肥のスリーエフ農法サイト http://ffnouhou.com/
(飛騨高山よしま農園・代表、多品目野菜・漬物味噌等製造)
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